なにかのまねごと

A Journey Through Imitation and Expression

ミノタウロスの皿を読んだ

 藤子・F・不二雄氏の名作の誉れ高い作品、ミノタウロスの皿を今日ようやく読んだ。漫画喫茶で読んだのだけれど、これはしっかりと自分でも買って手元に置いておかねばと思った次第。以下、ネタバレ全開の感想。作内の固有名詞をはっきりと覚えていないのはごめんなさい。

藤子・F・不二雄 (ビッグコミックススペシャル)

藤子・F・不二雄 (ビッグコミックススペシャル)

 読み終わった時、正直「これだけ?」と思った。とてつもないどんでん返しが来ると期待していたのだ。しかし、すぐに考えを改めた。やはりこの作品は名作だ。特にクライマックスのシーン、ヒロインが山車に乗って宴場へと向かうシーンの迫力は圧巻だ。そしてラストシーン、主人公がステーキを食べているシーンではどうしようもない皮肉と恐怖を感じる。
 こんなことは語り尽くされていると承知の上ではあるが、この作品は全く違う価値観を持つもの同士が分かり合うことの難しさをこれ以上無い純粋さで描き出している。と同時に、理性が動物的な本能を凌駕したときにどうなるかということについても言及しているように読める。真に理性的なのはヒロインやウシ達の方だ。動物ならどんな生き物でも持っているはずの殺される恐怖という感情を、思考による理論だけで凌駕してしまっている。一番の文明人であるはずの主人公こそが、実はどれだけ理を尽くされても殺される恐怖を克服することができない。
 そしてそんな主人公の姿が、読者である私たちにも動物的な殺される恐怖を連想させる。だからこそ、この話は怖い。ヒロインが殺される姿を想像するのが怖い。主人公に食べられてしまっている牛の殺される恐怖を想像してしまうのも怖い。
 言葉足らずではあると思うが、本当にこの作品は名作だ。