なにかのまねごと

A Journey Through Imitation and Expression

ネットが豊かにするコミックアート世界

 ネットが普及してそろそろ20年くらいになるかと思います。この20年、大きな変化がたくさんありました。

 この記事では、コミックアート分野の成長に目を向けます。

 この20年でコミックアート分野はものすごく飛躍しました。全体のレベルが底上げされただけではなく、トップ層のレベルも上昇したのです。

 この成長には、デジタルツールも当然寄与していますが、それ以上にネットの影響が大きいのではないかと思っています。

 ネットを通じて素晴らしい絵に触れ、一歩でも半歩でもその絵よりも前に進んだ絵を描く。そんなことを様々な絵描きの人が実現してきたからこそトップ層のレベルが進歩したのだと思います。

 また、ネットを通じて素晴らしい絵に触れ、一歩でも半歩でもその絵に近づこうとして絵を描く。そんなことを様々な人々が実現してきたからこそ、全体のレベル向上があるのだと思います。

 これはすべてネットによる恩恵なのです。

 そんな中で弊害も語られます。曰く、今のクラスで1番の絵が描ける才能のある人はいきなり世界レベルと比べられてしまい絵を辞めてしまう、という話です。

 でも、個人的にはあまりそれは当たらないのではないかな、と思います。残酷な話ですが、壁に行き当たって辞めてしまう人はどこかで必ず辞めてしまうからです。絵を続けるのならばどこかで必ず壁に行き当たるのですから。

 それよりは、クラスで1番の絵が描ける才能のある人が早いうちから世界レベルと自分を比べてもっと良い絵を描こうと取り組むようになることの方がずっと良いことだと思います。成長を軸に考えた場合、井の中の蛙であることの方がよっぽど怖いとおもうのです。

 そして以前にもブログに書きましたが、ネットには数字がついて回ります。ある絵が何万もの人に見てもらえたことがわかる代わりに、ある絵は30人くらいにしか見てもらえてないこともわかるようになりました。後者の側の人たちの気持ちは大変厳しいものがあります。

 けれども逆に、あまり見てもらえてないけれども続けている人の姿というのも見えるのです。そしてそうした姿勢を持った人々がいるからこそ、全体のレベル底上げが成ったのだろうと思います。

 そしてさらに、少ししか絵を見てもらえてなくても、見てくれた人の顔がネットを通じて見えることもある、というのが最近の個人的な学びでした。先日、10年くらい前の絵を再投稿したところこの絵を覚えているとSNSでおっしゃってくれている方を発見したのです。これは非常に嬉しかったです。

 そういうこともあるので、やっぱりネットはコミックアート分野の世界を非常に豊かにしてくれたと個人的には思うのでした。

セル画についての基礎知識

 セル画とは、90年代くらいまでのアニメを作る時に使っていた特殊な画材を使った絵のことを指します。
 少年ジャンプ展Vol.2で展示されていたスラムダンクのアニメOPがセル画の良さを存分に引き出したリマスターをされていたので、ちょっと自分が知ってるセル画についての知識を語りたくなりました。
 ソースはセル画の彩色職人だった知り合いの方のお話とお仕事見学とその後の調べによる知識です。

 セル画の特殊なところは、セルと呼ばれる透明なフィルムに絵を描くところです。
 日本で一般的なセルアニメーションは、このセルにキャラクターなどの動かすところを描いて、背景の上に重ね、一コマずつ映像用のフィルムに撮影していきます。
 背景とセル画を組み合わせた絵を一コマ撮影したら、キャラクターの絵だけ次の動きを描いたセルに入れ替えて、また一コマ撮影する。それを繰り返して動きのある映像用フィルムを作っていくのです。
 映像用フィルムの仕組みがわからない人は『8ミリ フィルム』あたりで検索してみるといいと思います。

 で、そんな用途で使うので、背景を透かさないようにするために、そして透明なセルにちゃんと塗れるように、特別に作られた特殊な絵の具を使います。
 加えてかなりの厚塗りをします。
 この厚塗りというのはCGの技法の厚塗りではなく、物理的に絵の具が分厚いという意味です。1ミリくらいの厚さはあると思います。
 この絵の具はセルの裏側から塗ります。そうすることで、透明なセルを表から見た時に色むらがなくなるのです。
 先ほど軽く説明をしましたが、セルアニメはセル画にキャラクターの動きを一枚ずつ描いて、一コマ撮影するごとに次の動きのセルに入れ替えてまた撮影します。そのため、塗りムラがあるとキャラクターの顔色などが一瞬ごとに違うという出来上がりになってしまいます。
 それを防ぐためにも、塗りムラができないように特殊な絵の具と特殊な塗り方が要求されるのです。
 また、撮影の際にはかなり強い光をあてるので、光を透かさないということも非常に重要です。

 特殊な塗り方について、もう少し説明します。
 アニメ塗りは基本的に黒いキャラクター線で色を塗り分けます。この黒いキャラクター線は、彩色職人さんのところにセルが届いた時点でセルに描かれています。
 これは、動画に描かれた鉛筆の黒鉛を、特殊な機械を使ってセルの表に写し取ることで描かれます。
 でも、例えば人物の影やハイライトなどは黒い線以外のところで色が塗り分けられています。
 この色の塗り分けの実現方法ですが、色トレスと呼ばれる技術を使います。
 色トレスでは、塗りたい色の絵の具をつけペンにつけて、動画の色指定が描かれた色鉛筆の線をセル画にトレスします。この色鉛筆の線は特殊な機械ではセルに写し取れないからです。これは彩色職人さんの仕事です。
 色トレスには、セルの表からトレスする方法とセルの裏側からトレスする方法の2種類があります。一般的なテレビアニメーションでは表側からトレスしますが、例えば雑誌用の一枚絵などといった手をかけられるセル画の場合は裏側からトレスします。
 なぜ色は裏に塗るのに色トレスは表にするのか?ということですが、これはセル画の色ぬりミスの修正方法と関係があります。
 セル画の色ぬりをミスしたらどうするのか?時間がタイトなテレビアニメでは最初から塗り直す時間はなかなかありません。また、先ほども説明した通り、絵の具はセル画にかなり分厚く塗られます。なので、竹でできたヘラを使って、はみ出したところ、間違えたところを削り取るのです。
 この削り取りをする時に、色トレスの線も絵の具と同じように裏側から描かれていたら、それまでヘラで削り取られてしまいます。
 なので、色トレスの線は表に描いて修正時に一緒に削り取られないようにするのです。
 しかし、厚塗り用のモッタリした絵の具で表側に線を描くと、その分表側に厚みが出ます。その表側の厚みは、時に撮影時の光で影を作ります。時々古いアニメを見ていると、色の境界線がはっきり見えることがありますが、それは表側の色トレス線が作った影によるものです。
 そのため、一枚絵などのなるべく綺麗に撮影したいセル画では、色トレスを裏側からします。修正の時に色トレス線まで削り取っても、線ごと丁寧に修正をします。それだけの時間をかけられるからです。
 もしくは、そんな修正などすることのない凄腕塗り師が仕事をします。

 そして、これまでの話を総合すると大体察しがついてくるかもしれませんが、セル画の色ぬりは通常の絵と違って細かいところから塗っていきます。
 セル画の裏側から、細かいところから塗っていけば、大きなところを塗っている時に細かいところに多少はみ出しても、表から見たときの出来には影響しません。
 そのためには、色を一箇所塗るごとにしっかりと乾かすことが重要です。なので、彩色職人さんたちは何枚ものセル画を並行で塗っていきます。一箇所塗って乾かしている間に他のセルを塗るのです。
 絵の具を乾かすことは、色を混ぜないようにするためにも非常に重要です。
 彩色職人さんたちは絵の具の色を混ぜないようにすることにも非常に気を使います。アニメーションのセル画は多くの人の手で大量生産されるので、絵の具も均質であることが重要です。そのため、手元で色が混ざらないよう、色ぬりに使う筆を洗う水にも気を使うのです。

 そして、セル画は通常何枚も重ねます。一人のキャラクターを一枚のセル画に描くのではなく、キャラクターの動く部分と動かない部分を複数のセル画に分けるのです。
 一番わかりやすいのはキャラクターの口パクだと思います。Aセルにはキャラクターの口以外の顔を描いて、Bセルに口を描きます。そして、撮影の際にAセルとBセルを重ねて、一コマ撮影するごとにBセルだけ入れ替えて口だけ動くことを表現するのです。
 知り合いの彩色職人さんのお仕事見学をした時、口だけが描かれたセル画が何枚もずらっと乾かされている光景を目にしたことがあります。そのセル画を見た時、口しか描かれてないなんてもったいないなと思い、その職人さんに言ったことがあります。そうしたら、そんなことはないんだよ、とお返事をいただきました。今となっては、動かない部分に絵の具と手をかける方がよほどもったいないとわかります。

 セル画は重ねるものなので、下のセルになるほどわずかにぼやけます。
 また、90年代のテレビは今ほど画質が綺麗ではないので、そこでもぼやけます。
 そのぼやけ方がセルアニメーションの味なのではないかと個人的には思うのです。
 冒頭に書いたジャンプ展で展示されていたスラムダンクのアニメのOP映像はそのぼやけを非常に綺麗に演出したリマスターがされた映像でした。ジャンプ展は非常に素晴らしい展示でしたが、1、2を争うくらいに印象に残りました。
 なので、セル画についてとりとめもなく知っていることをつらつらと語らせていただきました。
 ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

 

【参考書籍】 

アニメーションの色職人

アニメーションの色職人

 

  セル画についての解説というよりも仕事に対する姿勢についてのインタビュー本です。ジブリの色設計を支えた保田道世さんに対するインタビューが載っています。

 

色彩王国〈2〉

色彩王国〈2〉

 

 彩色の技法本なのですが、セル画の塗り方に関する実際的なテクニックが載っています。

 

作画汗まみれ 増補改訂版

作画汗まみれ 増補改訂版

 

  アニメーションの作画の歴史を知りたいならこの一冊ではないかと思います。日本でまだフルアニメーションが作られていた、鉄腕アトム以前の話が読めるのはこの本くらいではないでしょうか?

高校時代の実践的経済教育(ついでに仮想通貨)

 高校時代、文系クラスに所属していました。
 まぁ、文系クラスなので政治経済を履修させられるわけですが、そこで非常に面白い授業を体験させてもらいました。
 株式投資のシミュレーションです。証券会社がやっている株式投資のシミュレーションサービスを授業で体験できたのです。
 4、5名くらいの班に分かれて、資本金1000万を新聞で調べた実際の株価で売り買いし、1ヶ月ほどの期間で最終的に一番資本を増やした班が優勝、という内容でした。
 この授業、受けた当時はあまり意味がわかっていませんでした。
 そのため、私がいた班はとりあえず全額投資するのは怖いよね、ということで、300万くらいだけを投資してちまちまと小銭を稼ぎ、最終的に微妙にプラスで終わりました。
 ちなみに優勝した班は1000万を全額投資に回し、かなりぶっちぎりで優勝していたことだけ覚えています。
 まず当時の私に足りていなかった認識は、手元にある1000万の位置付けです。その資金は、全額リスクに回していい資金なのか、それとも最低限守るべき資産も含まれているのか、そこの見極めからして全くできませんでした。
 今だったら、手元の1000万は投資に回すべきと決めたお金なのだからということで全額投資に回していることでしょう。
 もう一つわかっていなかったのは、株のリスクの話です。なぜ300万しか投資に回さなかったのか?それは下手をしたら300万が丸ごと無くなってしまうかも、という極端な心配をしていたからです。うちの班ではたぶん株価の上下幅についてわかっている人は誰もいなかったのでしょう。もしいても言い出せなかったか。
 少なくとも私は株価というのは数%のスケールで上下するものだというのはわかっていなくて、もっと怖いものだという無知の状態でした。これも、今ならよほどのことがない限り1回の取引で資産が全部目減りすることはない、ということで、もっと積極的に投資をすることでしょう。
 こんなにいい教育を受けたことを今まですっかり忘れていたのですが、今日、思い出したので思い出話としてメモしてみました。
 ちなみに思い出したきっかけは今話題の仮想通貨です。それをきっかけに投資について色々と考えていて、そういえば高校時代に株式投資シミュレーションをしたなぁ、ということを思い出したのでした。

 私は今まで自分の資産を投資に回したことはありませんが、仮想通貨は明らかにバブル状態にあるなぁ、と端から見ていて思っています。
 みんながそこに価値があると思っているから値上がりしているだけで、実際の価値はもっと低いだろうというのが私の考えです。まぁ、これも株式についてよくわかっていなかった高校時代の私から何も進歩していなくて、無知ゆえの忌避感からそう思っているだけかもしれませんが。
 でもそう思っているからにはバブルがはじけるきっかけについても考えてみるのが筋のような気がするのですが、具体的なきっかけというのはなかなか思いつかないです。とりあえず、何かのきっかけで仮想通貨が現金化できないという事態になったらバブルは弾けると思うのですが、その何かのきっかけはなんなのか?というのが想像できない。
 仮想通貨の価格と一般に流通している通貨との釣り合いがどこかの時点で取れなくなったら現金化できなくなるだろうとは思うのですが、その釣り合いが高止まりしたまま限界を超えるのか、何かのきっかけで釣り合いが下がり現金化できる限界を超えてしまうのか、それすらもわからない。
 ただ、この仮想通貨が投機対象になっている現状は本来の仮想通貨の意味を考えると、作った人的には非常に不本意な現状なのだろうなぁ、とは想像します。
 仮想通貨は本来、中央集権的に発行される現在の通貨に対するカウンターとして考え出されたものだというのが私の理解です。
 けれども現状としては現在の通貨に従属する形で、現実通貨に換金できるから意味のあるものだ、と考えられている。
 仮想通貨がそのジレンマを超えて、現在の通貨に取って代わり一般に流通する通貨となることができるのか?
 その答えは全くわかりませんが、考えてみると結構面白いなぁと思う次第です。