なにかのまねごと

A Journey Through Imitation and Expression

ドラクエ5思い出話

小学生だった頃の話だ。

「お前さー、女だからゲーム出来ないだろー」

 クラスの男子にそう言われるのが嫌だった。でも、私がアクションゲームの類は一切と言っていいほど出来ないのは事実だったし、男子もそれを知ってからかってくるのだ。私はムキになって言い返す。
「今度出るドラクエ買うもん!ドラクエなら絶対できるもん!」
 当時の私がなぜそう思い込んでいたのか分からない。その頃ドラクエは4まで出ていて、1年以内に5が出るとの話だった。それまでのドラクエは一度もやったことはない。だけれど、私にとってドラクエはプレイする前から特別なゲームだった。
「はぁ?ドラクエだってゲームじゃん。ドラクエの方がもっと無理ー」
 そう言ってくる男子に心底腹を立てながら、今度のドラクエは絶対買うんだ、と固く心に誓っていた。
 我が家では年に一度の誕生日にしか新しいゲームを買ってもらうことが出来ない。ドラクエ5の発売日が伸びてしまったので自分も誕生日プレゼントを買ってもらうのを先延ばしにして、ようやく念願のドラクエ5を手に入れた。

 私が最新のドラクエを買ったということで、家には近所の男子たちが詰めかけてきた。彼らからのアドバイスを受けながら、私は少しずつゲームを進めていく。私がずっと思っていたとおり、ドラクエは私でも出来るTVゲームだった。女だからゲームが出来ないというからかいは、何時の間にやら消えていた。
 私の両親は躾に厳しく、ゲームは休みの日に1時間だけしかやってはいけない、という決まりごとがあった。それはしばしば「あとちょっとー!セーブするまでー!」という呪文で破られたが、それでも2時間以上続けて遊ぶことなどは出来なかった。それでもなのかだからかなのか、その時間は本当に幸せな時間だった。

 それから一年。一年の間私は毎週ドラクエの世界に向き合い続けた。
 レヌール城の怖さ、妖精の国に続く階段の美しさ、パパスの死に様、残された手紙、プックルとの再開、ビアンカとの結婚、グランバニアへの帰還、成長した子供たち、過去のサンタローズ、ゲマとの戦い、ビアンカの救出、魔界で聞いた母の声、旅の思い出を数えると切りがない。
 それにビアンカの真似がしたくて、それまでずっとショートだった髪を伸ばし始めることもした。
 そして一年間の旅の末、エビルマウンテンにたどり着いた。どうやらここが最終局面らしい。

 しかし、一年間が経ってしまった。誕生日がきたのだ。

 その時は特に欲しいゲームなどはなかった。ドラクエに夢中だった。しかしこの機会を逃したら新しいゲームを買ってもらえるのは一年先になってしまう。そう考えた私はなんとなく目についたゲームを買ってもらい、試しにそのゲームで遊んでみるため、一年間ずっとスーファミに刺さりっぱなしだったドラクエ5のカセットを抜いた。

 それが原因だったのか、他の理由があったのか、それは分からない。しかし次にドラクエ5を遊ぼうとしたときに、私は呪いの音楽を聞いた。
 それから私はドラクエ5をどうしたのか、残念ながらはっきりとしたことは覚えていない。しかし、少なくとも髪を切るようなことはしなかった。それに、マスタードラゴンの背に乗って世界中を巡るエンディングの記憶もある。だから、きっとどこかの段階でちゃんとクリアしたのだと思うが、悲しいことにそれを覚えていない。
 でも、私にとってドラクエ5は宝石のようなゲームだった。